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 全ベータ放射能測定について


水や食料に含まれる放射能を測定するには,本来核種ごとに異なる計測器と手法で分析する必要がある。ガイガーカウンターは原理的に核種の特定はできないが,核種の特定を行わない全ベータ放射能測定という手法が従来より行われおり,文科省による放射能測定シリーズでは,まず最初に「全ベータ放射能測定法 」から始まっている。かつては我が国でも広く行われていたが,現在では核種によって人体に及ぼす影響が異なる事が明らかになってきたことや,計測器の発達により,核種を特定する測定方法が主体となっている。現在においても「WHO飲料水水質ガイドライン」で,スクリーニングの手段として全ベータ放射能測定が示されており「全アルファ線では0.5ベクレル以上ベータ線では1 ベクレル以上の放射能があるを超える場合に限って,個々の放射性核種について分析を行うべき」であるとされている。このことは全ベータ放射能測定のスクリーニング検査における有用性と妥当性を示すものである。全ベータ放射能測定は,予測作用素が多いために使い方を誤ると危険である。本格的な検査には適さないが,用途と方法を誤らなければ有用な手段であり得る。



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【適用範囲】
全ベータ放射能測定法に適さないと思われるケースとしては以下が考えられる。
・ガンマ線しか測定しないタイプのガイガーカウンター
・計数効率の低いガイガーカウンター
・積算計数値数が表示できないガイガーカウンター
・エネルギーが著しく低いベータ線核種の測定
・低レベル放射能の検出
・精度や確度が求められる本格的な検査

【検査方法】
水の場合は,100mlの水を蒸発濃縮し,直径数センチの試料皿に濃縮水を入れて乾燥し,ガイガーカウンターを数センチ以内に近づけて測定する。食品の場合は,試料の灰化は必須である。灰化法には湿式と乾式があるが,文科省の「全ベータ放射能測定法」では乾式を採用している。湿式は,高額な電気炉が必要になるが,危険な薬品を扱う必要が無く,また灰の取扱も楽だというメリットがある。


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【相対測定と絶対測定】
相対測定とは,既知の基準線源を用意して,同じ条件で測定して未知の線源の放射能を割り出すというものである。絶対測定とは,測定値に影響を及ぼす因子を実験,検証して,計数効率を計算して未知の線源の放射能を割り出す。精度は高くなるが,手間がかかるので「全ベータ放射能測定法」でも,相対測定法を採用している。

【必要な機材】
「全ベータ放射能測定」においては,ガイガーカウンターの性能よりも計測環境や計測法が重要である。測定を行うためには以下の機材が必要となる。
・塩化カリウム
・精密はかり
・ガスバーナー,試料ザラ,ろ紙などの理化学用品
・デシケーター(密閉容器と除湿剤で代用可能)
・赤外線ランプ(家庭にある熱源で代用可能)
・電気炉(食品を計測する場合のみ)
・集塵機(大気を計測する場合のみ)
「全ベータ放射能測定法」では水の測定にU3O8(八酸化三ウラン)を規準線源としているが,絶対測定の手法を取り入れて塩化カリウムを代用とすることもできる。塩化カリウムはヨウ素やセシウムやストロンチウムといった核種に近いエネルギーをもっているため,これらの核種をターゲットとする場合は,適切な補正さえ行われれば精度が高くなるというメリットもある。

【測定値に影響する因子】
相対測定においては,規準線源の計数効率とターゲットの計数効率が同じと見なされるが,絶対測定においては以下のように多くの因子を検証し,機器や計測環境ごとに固有の計測方法を確立する必要がある。他の実験結果を測定の根拠にしてはならない。
・計数管の直径と線源の直径
・計数管と線源の距離
・放射線の減弱度が核種により異なることによる影響
・試料の厚みや,核種によって自己吸収率が異なることによる影響
・測定条件によって,放射線が試料台に跳ね返る(後方散乱)ことによる影響
・計数管内での効率や数え落としや多重計数等,機器そのものの性能に由来する影響


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